プロフィール 矢沢勇樹について

矢沢写真2矢沢 勇樹(やざわ ゆうき)
   Dr. Yuuki YAZAWA
  (Associate Professor)

 
学   位:博士(工学)
現   職:准教授(千葉工業大学工学部)
専   門:土壌環境化学,反応工学
出   身:長野県
座右の銘:
 努力より好んで為す(幸田露伴『努力論』)
   〇
「百を目指してやっと十,十を目指しては五も得られない」
   ○
「小さくてもいい,深くて丈夫な“井戸”を掘れ」
   ○「天才の“仮面の下”はいつだって汗の臭いがする」
 自反而縮雖千萬人吾往矣(みずからかえりみてなおくんば、せんまんにんといえどもわれゆかむ)

略歴

1972年6月 長野県生まれ
1991年3月 長野県立諏訪清陵高等学校 卒業
1995年3月 千葉工業大学工学部工業化学科 卒業
1997年3月 千葉工業大学大学院工学研究科工業化学専攻博士前期課程 修了  
  (この間,エジプト西砂漠にて沙漠緑化プロジェクトに参加)
2000年3月 千葉工業大学大学院工学研究科工業専攻博士後期課程 修了
  博士(工学)取得
  (この間,University of Western Australia, Soil Science and Plant Nutrition(Gilkes教授)およびCSIRO Land and Water(Wong博士)の指導のもと小麦耕作地の土壌酸性化の改良に関する研究を研究生として約1年間滞在)
2000年4月 千葉工業大学 助手
  (この間,Monash University, Center for Green Chemistry(Jackson教授)およびRutherglen Research Instituteの協力のもとRITE優秀研究助成を実施)
2004年4月    同      助教
2009年4月    同      准教授(現在に至る)

自己研究観

~ 学生時代の研究観 ~
 現在の研究内容に至るまでに,私は無機材料化学に関心があり,そのなかでも顔料生体親和性材料を学びたく千葉工業大学工学部工業化学科に入学した。ただ,日ごろの努力が足りず(実際には運がなく),希望の研究室に入ることができなかった。このことは,私にとっての研究活動の最大の転機(化学反応)となった。それが有機資源化学研究室の山口達明先生との出会いとなる。
UnderG1 正直,有機化学は苦手とする分野であったが,先生から与えられた卒業論文テーマは,「トロピカルピートから抽出したフミン酸アンモニウムの性状」であった。大学入学当初から大学院進学を視野に勉学に勤しんできた(?)ものの,この卒業論文のテーマをもらったときは正直悩んだ。しかし,このテーマは幼少の頃から自然に囲まれ,農業を手伝っていた私のシーズを芽生えさせたような気がする。
 そのまま大学院に進学し,修士論文テーマEgypt1は,「トロピカルピートおよび風化炭から抽出したフミン酸アンモニウムによる砂質土壌の改良」となった。いわゆる,沙漠化土壌への改良資材に関する研究である。学部生のころは常に「失敗」を怖れながら周りからの期待に応えようとした。偽りのプライドであり,それが研究の進展を阻害した。大学院生のころの私は,実験装置のまえに座っていることが至福な時であった。無心に実験すれば,その結果(データ)は裏切らない。結果の良し悪しは先生が判断すればよく,仮に反論されても自分で創出した結果が後ろ盾をしてくれる。修士2年の研究室の飲み会のとき酔いにまかせ先生に「私の研究は沙漠化土壌の改良なのに,私の目には沙漠が見えない」。翌週,先生に呼ばれ,パスポートを作るよう言われた。エジプト西砂漠,はじめての異国でのフィールド実験である。多々,苦労はあったが,砂漠の自然環境とそこで生活する人々に魅了された。Australia1
 修士課程修了後は沙漠緑化事業を手掛けているゼネコンや総合農業用機器メーカーへの就職を考えたが,バブル崩壊後の現実は厳しく内定をもらうことができなかった。沙漠への想いは変わらず,先生の勧めもあり博士課程に進んだ。修士課程までの研究成果(多くの失敗から生れた成功への課題)をベースに博士課程ではオリジナルかつ効率的なデータ生産を心がけ,研究計画をたてた。その1年目の夏,山口先生より西オーストラリア大学(Perth)にて乾燥地農業における土壌荒漠化問題に対し,オーストラリア産およびインドネシア産の低品位炭(腐植物質を含むピートや褐炭)を用いた改良技術について学んで来るよう話をいただいた。語学力と土壌に関する専門知識の乏しさは自覚していたが,またとないチャンスであり不安感より期待感がまさったので約1年間,研究生として渡航を決意した。この1年間で多くの研究者と仲間に出会い,援助してもらった。特に研究指導をしてくれたのが西オーストラリア大学農学部土壌科学・植物栄養学科学科長のBob Gilkes教授とCSIRO Land and Water特任研究員のMike Wong博士であった。オーストラリアは穀物や食肉の生産国であるが,地力以上の生産が耕地荒漠化の拡大が深刻な問題となっている。塩害も問題となっていたが,私は塩欠乏による酸性化土壌(アルミニウム害)が課題となった。ラボでの植生試験にあわせ,フィールドでの圃場試験も試みた。特に,Mikeは土壌化学の専門であることから,アルミニウムの分析手法や土壌溶液中のアルミニウム形態の平衡計算まで詳細に指導してくれた。また,モナッシュ大学(Adelaide)のRon Beckett博士よりFlow FFF法による腐植物質の分子量測定の新法を学んだ。帰国後,引き続き天然腐植物質(特にフミン酸)の化学構造をNMRやTOF-MSなどから推定した。この間,論文を発表し,「天然腐植資材を用いた荒漠化土壌の改良」を博士学位論文として千葉工業大学より博士(工学)を取得した。

~ 教員時代の研究観 ~
 学位取得の同年4月より,同大学工業化学科の専任教員として採用された。立場は大きく変わったものの,研究観は学生時代と変わらなかった。
Australia2 博士課程最終年度,RITE優秀研究企画の助成申請が2000年4月~2002年3月の2年間採択された。申請課題は「天然腐植物質供給によるオーストラリア荒漠地炭素循環システムのリフォーム」である。この研究企画では東京大学新領域創成学科の大森博雄教授の助言を多大にいただいた。研究フィールドはRutherglen研究所の協力によりMelbourne北東のコムギ耕作地を対象とし,モナッシュ大学グリーンケミストリーセンターと共同で行った。研究内容は,供給もしくは生産された腐植物質がどのくらい安定なのか,土壌炭素循環モデルに対応させて評価した。当時は,COP3会議によるCO2削減目標(京都議定書)が定められた直後であっただけに,このような研究課題は高い評価をいただいた。手法は,農業履歴が明確な農地土壌中の放射性炭素(14C)を測定し,腐植画分と年代との関係を明らかにした。2002年には,日本沙漠学会より学会奨励賞をいただいた。
 2004年4月から2008年3月の5年間,私立大学学術研究高度化推進事業産学共同研究プロジェクトが山口先生を代表として採択された。申請課題は「千葉県地下かん水より産出する資源(メタン・ヨウ素・フルボ酸)の高度利用」である。房総半島の地下には古代海水(数百年前)を含む上総層群があり,様々な地質要因が組み合わさったことで高純度メタンガスと高濃度ヨウ素を含んでいる。これらの資源はすでに半世紀前から家庭用や工業用として利用されている。このプロジェクトではこの二つの資源の高度利用に加え,新たにフルボ酸の新規利用を試みることが特徴である。私はその中で「フルボ酸の抽出と平均化学構造の解明」をおこない,地表水に含まれるフルボ酸とは明らかに異なった脂肪族と窒素に富んだ構造であった。フルボ酸には植物への生理活性があることは以前から報告されているが,地下かん水中フルボ酸はその効果が非常に高いことがわかった。また,この時期にマイクロサイズの微細気泡が注目されるようになり,私の研究室でも「オゾンマイクロバブルを用いた地下かん水中ヨウ素の浮撰分離」を試みた。微細気泡発生装置を開発する企業も多くなり,いくつか相談するなかでオーラテック株式会社の江口俊彦社長とのつながりができたのもこの時期である(現在も親交中)。さらに,地下かん水の高度利用として,「メタンやヨウ素を含む湧水から極限環境由来の機能性微生物の探索」も試みた。
 プロジェクトを通して出会ったのが武田弘教授である。武田先生は,鉱物学を専門に「月の裏側の隕石を解明」するなど,その研究成果は世界の鉱物学者で知らない人はいないほど著名な先生である。現在も先生自ら蛍光X線プローブにより解析するなど先生の研究観は私にとっての目標となる。また,先生はフランスのブドウ畑の地質を調べたり,沖縄の四季と食材を調べたりと研究とは別に食に対し貪欲な方である。先生の話題に刺激をうけ,JAXAの宇宙農業サロンにて「地球資源”フルボ酸”を用いた月・火星沙漠における土壌創製」を提案した。同時に,JAXA・清水建設の「模擬月土壌原料鉱物調査および分析」の委託を受けるようになった。さらに,船橋市・鎌ヶ谷市・習志野市から市民講座の依頼を受け,「房総の自然と循環型社会との共存共栄」など,房総の魅力を紹介する機会をいただいた。2007年度には笹川科学研究助成を申請し,学術研究部門にて採択された。申請課題は「古代海水フルボ酸による黒雲母の地球化学的風化機構の解明および水産資源との関連」である。黒雲母は鉄を豊富に含む鉱物であり,森林の腐葉土から溶出したフルボ酸がその鉄を溶脱し,海の水産資源を豊かにしているのではないかと推測したからである。ここから科学的根拠に基づく研究調査を,房総半島の中南部に流れる養老川と小櫃川,さらに小櫃川河口域に広がる盤洲干潟を対象に学生とともに実施している。2009,2010年度の2年間には,海洋政策研究財団の奨学支援により「小櫃川流域のフルボ酸の影響評価に関する調査研究」,「フルボ酸を指標とした小櫃川河口盤洲干潟の緩衝作用」を課題に研究を行うことができた。近隣のフィールドで本格的に調査したのは,これが初めての経験であり,このときに携わった学生は私の研究観に困惑したことだろう。ただ強調したいことは,「自然環境を相手にした研究は,自らの五感をもって参加しなければ苦痛でしかない!」と私は考える。逆に,「自ら参加した者は,巧みな自然環境の仕組みをより実感できる」と私は思っている。イノベーション
 2008年度からの5年間,研究拠点を形成する研究資金に伊藤晴雄教授を代表とするプロジェクトが採択され,始まった。申請課題は「電子と原子分子ホトン(光子)ダイナミックスの基礎とその先端応用技術の展開」である。以前から,伊藤先生の功績の放電技術によるオゾン発生法に注目しており,これに微細気泡と複合することで新しい反応系を発明できるのではないかと考えていた。先生から「放電は物質・分子を壊すことは得意であるが,目的なものを組み立てること(自己組織化)が難しい」といわれ,私はこれをカバーするのが微細気泡やミストなどの異相流体であると直感した。そこで「微細気泡共存下での水中放電の実現化」を目指している。さらにそこから進展し,オーラテックの江口社長より「おもしろい気泡」,「おもしろいエマルション」を開発したと話をいただいた。通常,微細気泡にしても,エマルションにしても光の屈折・散乱が生じることで溶液は白濁する。しかし,社長が開発した微細気泡とエマルションは透明であり,かつ極めて安定であった(分離しない)。その一つの理由にナノサイズ化があげられるが,さらに両親媒性の界面活性剤は一切添加していない。現在,安定性のメカニズムの解明を含め,新しい応用を検討している。これについては,2010年9月末に東京国際フォーラム展示会場で行われたイノベーション・ジャパン2010-大学見本市に「水と油を安定混合するナノテクノロジー」をテーマに出展した。多くの来場者があり,高い支持をいただいたのと同時に,重要な助言もいただいた。「新しいものを作り・評価する場合は,評価する手法も自ら発明しなければならない」。ごもっともである。夢ナビ
 私の研究観が発散気味であることは自覚している。とは言え,地球惑星資源である「土壌」に飽きたわけではない。2010年7月に東京国際フォーラムで初めて行われた第一回夢ナビライブで大学進学を考えている高校生を対象として「地球の砂漠化対策の決め手はこれだ!」を講義した。一人でも多くの若者に私の研究観から刺激を受けてほしい。また,2011年1月24日にWOWOWで放送された「ノンフィクションW Tomi富野由悠季 宇宙エレベーターが紡ぐ夢」にファーストガンダムの生みの親である富野氏と対談する機会をいただいた。(ちなみに当番組は放送後,財団法人日本科学技術振興財団第52回科学技術映像祭の部門優秀賞を受賞した。)私もガンダム世代の一人に属するが,その流れに乗れなかった人物である。富野氏に怒られるかもしれないが,私の宇宙観は「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」の影響が大きい。余談だが,「銀河鉄道の夜」の著者である宮澤賢治の得業論文「腐植物質中ノ無機成分ノ植物ニ対スル価値」であり,勝手ながら今の私の研究観と共通する部分が多い。話はもどし,富野氏の未来を見据えた洞察力はすごいと感じた。童心の感性を持ちつつ,専門家の盲点をダイレクトに指摘する。天性の発想力の持ち主である。とは言え,人一倍情報収集し,勉強している。富野氏との対談の起点は,「宇宙で土を作ろうと考えている研究者(偏屈者)はいないか?」から私につながったようである。富野氏にとって,「スペースコロニーになぜ土がいっぱいあるのかというアニメの嘘を正視したい」,そこで宇宙でも土を作れる可能性を確認したのち,「今回得た知識がないと畑のシーンを作る気がしない」と述べている。最後に,「10万年後の地球でも 君たちが生き延びるために...」で番組はしめられている。この言葉に私も共感する。別にスペースコロニー実現のための宇宙農業構想(テラフォーミング)は私は考えていない。むしろ,原始的地球の姿をもった他天体を紐解くことで複雑なマトリックスで塗り固められた現在の地球環境問題を根本的に考えてみたいからである。100億人時代を間近とする地球において最も大きな問題は「食糧」,そして,その食糧を生産する「農地」をいかに確保するかである。その救世主は,「腐植物質」であり,その触媒が「炭化物」と考える。私の研究観でどこまでの成果を指し示せるかは限りなく微小であるが,少なくとも大学教育と研究から次世代に残せるように努力は惜しまない。